HIV以外の性感染症について
注射針の使いまわし、医療従事者の針刺し事故、危険な環境でのタトゥーなどでHIV感染が心配な方は、HIV以外の検査では、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、梅毒、HTLV-1くらいの検査をおこなえば充分だと思われますが、性行為によるHIV感染が心配な方は、他のすべての性感染症について考えるべきです。
◇検査方法や費用については「性感染症検査の費用」を参照ください。◇
●淋病
男性であれば感染して1~3日程度で尿道に痛みが生じたり、膿(うみ)が出たりしますが、最近は自覚症状の乏しい淋病も少なくありません。女性の場合は大半が自覚症状がありませんが、進行すると腹膜炎を起こすこともありこうなればかなり危険な状態となります。
参考:毎日新聞「医療プレミア」
◇検査方法や費用については「性感染症検査の費用」を参照ください。◇
●梅毒
最近、梅毒は増加していることが指摘されていますが、当院では過去13年間でほとんど変化がありません。当院に関して言えば、梅毒は「昔から多い感染症」です。
梅毒の1回きりの筋肉注射について
- ・重症化している場合、または重症化リスクのある場合のみが対象となります。
- ・前医で診断がついて当院で注射を希望される場合は、診療情報提供書(紹介状)が必要になります。
- ・過去にペニシリン系及びセフェム系抗菌薬で副作用の出た人には使えません。
- ・腎臓の機能が低下している場合、使えないことがあります。
GINAコラム 「増え続ける梅毒」
◇検査方法や費用については「性感染症検査の費用」を参照ください。◇
●性器ヘルペス
ペニスや外陰部、肛門周囲に痛みの伴う小さな水泡(みずぶくれ)ができ、進行するとびらん(ただれ)ができます。症状に応じて、塗り薬、飲み薬、点滴などを使い分けます。
性器ヘルペスがやっかいな点は2つあります。1つは、コンドームをしていても感染することです。もうひとつは、いったん治っても再発するということです。
海外では以前から認められていた「抗ヘルペス薬少量長期投与療法」が、2006年9月にようやく日本でも保険適用となりました。これにより、頻繁に繰り返す再発に悩んでいた患者さんの多くは苦しみから解放されています。気になる方はお気軽にお問い合わせください。
参考:GINAコラム 「性器ヘルペスに悩まないで!」
●B型肝炎
肝炎ワクチンの接種をしようのページをご覧ください。
参考:毎日新聞「医療プレミア」「誤解だらけのB型肝炎ウイルス」
はやりの病気第8回 B型肝炎
はやりの病気第43回 B型肝炎にはワクチンを
GINAコラム「本当に怖いB型肝炎」
●A型肝炎
肝炎ワクチンの接種をしようのページをご覧ください。
参考:毎日新聞「医療プレミア」
「急増A型肝炎の感染経路は「食べ物と性交渉」」(2018年9月23日)
GINAコラム「危険なアナルセックス~A型肝炎編~」
●C型肝炎
A、B型肝炎と異なり、C型肝炎ウイルスには効果的なワクチンがありません。また、B型肝炎やHIVのように感染したかもしれないときにすぐに服薬や注射をすれば効果があると考えられているような薬剤も現時点では存在しません。
C型肝炎は急性化することはあまりなく、急性化したとしても症状は軽度です。しかし、感染すると70%程度は慢性化すると言われており、慢性C型肝炎の治療が必要となります。
検査は血液検査で簡単に分かります。
治療については、ここ数年で劇的な変化があります。以前は「不治の病」とも言われていましたが、最近では「ほぼ完治する感染症」となっています(いずれ詳しく解説いたします)。
参考:GINAコラム「C型肝炎の検査を受けましょう」
●子宮頚ガン
がんをきたす性感染症は6つあります。B型肝炎ウイルス(肝臓ガン)、C型肝炎ウイルス(肝臓ガン)、HIV(リンパ腫や肉腫)、HTLV-1(成人性T細胞白血病)、EBウイルス(バーキットリンパ腫や上咽頭癌)、そしてもうひとつが子宮頚がんをもたらすヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)です。HPVは多くの病気の病原体であり、例えば指などにできるイボもそうです。また、後に述べる尖圭コンジローマもHPVによるものです。
参考:毎日新聞「医療プレミア」
- 「HPVワクチン「推奨派敗訴」と接種の是非は別問題」(2019年4月21日)
- 「ワクチンへの「否定」も「理解」も生んだネット情報」(2019年4月7日)
- 「接種率向上には 大人から始めるHPVワクチン」(2018年7月29日)
- 「中咽頭がん急増の恐れ 予防にはHPVワクチン」(2018年1月14日)
- 「性暴力被害から考えるHPVワクチン」(2016年7月24日)
- 「「子宮頸がんは性感染症」が生む偏見」(2016年7月17日)
- 「奇妙で不思議な病原体HPV」(2016年7月3日)
- 「HPVワクチン不信が生じた過程」(2016年6月26日)
- 「HPVワクチンを理解するのに必要なこと」(2016年6月19日)
- 「HPV母子感染 知られざるリスク」(2016年6月12日)
GINAコラム「子宮頚ガンとHPVワクチン」
●尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマもHPVによる感染症です。(ただし子宮頚がんをきたすHPVとはタイプが異なります) 子宮頚がんとは異なり、尖圭コンジローマはほとんどがん化することがありません。
症状はイボのようなものが、ペニスや外陰部、腟壁内、肛門周囲、尿道などにできます。痛みも痒みもほとんどありませんが、大量にできるとイヤな臭いが出てくることがあります。下記コラムでも述べているようにワクチンを接種しておくことを勧めます。コンドームで防ぐことができず、感染すると再発を繰り返すことが多いために「予防」(ワクチン)が大切になります。
●腟カンジダ症(カンジダ性腟炎)
カンジダは真菌で、分かりやすく言えばカビの一種です。腟内に感染しかゆみをもたらします。白っぽいオリモノが増えることもあります。この白っぽさは、酒かす様、ヨーグルト様などと表現されます。
診断は通常顕微鏡ですぐに分かりますが、顕微鏡で分かりにくければ培養検査をおこなうこともあります。この場合1日程度で結果が分かります。
治療は、抗真菌薬の腟錠を使います。ひどければ内服薬を用いることもありますが、通常は腟錠のみで充分です。
腟カンジダ症が他の性感染症と異なる点は、性交渉がなくても感染しうる、ということです。これは、カンジダは腸管の中に棲息していることがあるからで、肛門から会陰部を通って腟の中までやってくるというわけです。特に、抗生物質を内服しているときには腸管内の細菌が死滅し、代わりに真菌であるカンジダが増殖するので、腟カンジダ症が起こりやすくなります。ちょうど、赤ちゃんに抗生物質を飲ませると、肛門周囲にカンジダ性皮膚炎が起こりやすくなるのと同じ理屈です。
あなたが男性で、もしもあなたの彼女が腟カンジダ症になったとしても、すぐに浮気を疑わないように注意をしましょう。
参考:毎日新聞「医療プレミア」
GINAコラム「カンジダをきたす3つの要因」
●カンジダ性亀頭炎
腟カンジダ症が性感染でない場合があるのに対して、カンジダ性亀頭炎は性感染であることが多いと言えます。しかしながら、小学生の男の子でもカンジダ性亀頭炎を起こすことがありますから、必ずしも性感染というわけではありません。特に、包茎の人は性交渉がなくてもカンジダ性亀頭炎をおこしやすいと言えるでしょう。
検査は顕微鏡でおこないますが、この場合は検査をしなくても視診だけで診断がつくこともあります。
抗真菌薬の外用薬で治癒しますが、炎症の強いときは一時的にステロイド外用薬を処方することもあります。
●腟トリコモナス
やや黄色身を帯びたイヤな臭いのきついおりものが出ていれば腟トリコモナスを疑う必要があります。感染が軽度であれば自覚症状がないこともありますが、顕微鏡の検査ですぐに分かります。
治療は、通常は飲み薬で治します。(妊婦の場合は腟錠を使うこともあります)
薬の服用期間は普通は10日間で、この間は飲酒を控えなければなりません。
また、腟トリコモナスは、性感染以外にも、銭湯や温泉でも感染することがあると言われています。
●毛じらみ
陰毛が生えている部分のかゆみがあれば、じっくりと観察してみましょう。白いものがあれば毛じらみの可能性があります。クリニックで顕微鏡の検査をすればすぐに診断がつきます。
治療は、虫を殺す粉薬やシャンプーを使います。
参考:GINAコラム「毛じらみは自分でみつけましょう!」
●疥癬(かいせん)
通常、先進国にはあまり発症報告がないのですが、日本は先進国のなかでは例外的に疥癬が多いようです。ヒゼンダニというダニの一種がおこす感染症で、性感染症以外には老人ホームなどで大量発生することがあります。こうなれば医療従事者も感染しているのが普通です。
ヒゼンダニは主に夜間に活動をします。皮膚の中に卵を産み付け、孵化するのも夜間だと言われています。したがって疥癬のかゆみは夜間に増強するのがひとつの特徴です。
診断は、顕微鏡ですぐにつきますが、感染初期には分からないことがありますので、疥癬の感染を疑えば、何度も顕微鏡の検査が必要になることもあります。
これまで治療薬にいいものがなかったのですが、2006年の8月から非常によく効く飲み薬の保険適用が認められるようになりましたから、現在ではそれほど治療に苦労することはありません。
参考:毎日新聞「医療プレミア」
●鼡径リンパ肉芽腫
クラミジアの一種がおこす感染症で、またの付け根のリンパ節が腫れるのが特徴です。ただし、最近の日本ではあまり報告がありません。一方、タイや中国ではよくある感染症ですから、タイや中国で危険な性行為をした後にまたの付け根が腫れだしたという人は疑うべきかもしれません。ただ、またの付け根のリンパ節が腫れる病気は他にもたくさんありますから、この病気だと決め付けないでまずはお気軽にご相談を。
●HTLV-1感染症
なぜか一般の方にはあまり知られていない重要な感染症がHTLV-1です。このウイルスは成人型T細胞白血病という白血病の原因ウイルスです。そしてこの白血病には有効な治療法がありません。また、白血病がおこらなかったとしてもこのウイルスを持っていれば、HAM(HTLV-1関連脊髄症)という名前の手足が動かなくなる病気になることもあります。
このように非常に重篤な病気をもたらすウイルスなのですが、世間の関心はあまり高くありません。その理由に、ウイルスを持っていても必ずしも発症するわけではないことと、潜伏期間が数十年と、感染しても長期間発病しないことが考えられます。
しかしながら、日本にはこのウイルスを持っている人(キャリア)が、およそ100万人もいると言われています。地域に偏りがありますが最近はその傾向が薄れてきています。
参考:毎日新聞「医療プレミア」
はやりの病気第47回 誤解だらけのHTLV-1感染症(前編)
はやりの病気第48回 誤解だらけのHTLV-1感染症(後編)
GINAコラム「少しずつ注目され始めたHTLV-1」
●他の細菌感染症
腟炎や尿道炎をきたす細菌は、クラミジアや淋病以外にもたくさんあります。おりものが気になる、残尿感がある、尿道に違和感がある、などの症状がある人はクリニックを受診しましょう。顕微鏡の検査ですぐに分かります。もしも感染していれば、必要な抗生物質を飲めば簡単に治ります。
参考:GINAコラム 「いわゆる”雑菌”の病気」
2021年3月27日更新
「かかりつけ医をもとう」
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