Choosing Wisely
Choosing Wisely Top 10
Choosing Wiselyは直訳すると「賢く選択」となりますが、分かりやすく言えば「不要な医療をやめる」ということに他なりません。もちろんchoosing wisely以前の話として、医療行為というのは「検査や薬はできるだけ少なく」が原則です。このページでは、当院でよくある「患者さんは求めるけれど不要でムダな診療」を頻度の多いものから順に紹介したいと思います。
参考:
メディカルエッセイ第144回(2015年1月)「Choosing Wisely(不要な医療をやめる)(前編)」
メディカルエッセイ第145回(2015年2月)「Choosing Wisely(不要な医療をやめる)(中編)」
メディカルエッセイ第146回(2015年3月)「Choosing Wisely(不要な医療をやめる)(後編)」
マンスリーレポート2016年11月「Choosing Wiselyが日本を救う!」
マンスリーレポート2016年12月「Choosing Wiselyがドクターハラスメントから身を守る!」
メディカルエッセイ第172回(2017年5月)「医師に尋ねるべき5つの質問」
第1位 アレルギーの検査は適応を絞る
アレルギーの原因物質(アレルゲン)を調べなければならないことがあるのは事実です。ですが、次のような場合は不要であることがほとんどです。
・ほとんどのじんましん
じんましんのほとんど(95%以上)は血液検査がまったく無意味です。
・「〇〇を食べると身体の調子が悪い。だから血液検査をしてほしい」
食物アレルギーというのは(一部の例外を除いて)「即時型」といって食直後に症状が出ます。それもかなりの重篤な症状となります。上記のような訴えは、〇〇を食べると調子が悪くなるのは事実でしょうが、アレルギーである可能性は低く、検査は不要のことが多々あります。〇〇の具体例としては、コムギが最多ですが、最近はカゼインも増えています。そういう場合、じっくりと問診をした結果、「ではしばらく避けましょう(もしくは少量にしましょう)」と助言することはありますが、検査が必要になることはほとんどありません。
参考:はやりの病気第158回(2016年10月)「コムギ/グルテン過敏症」という病は存在するか
・セットの血液検査(IgE抗体)
セットの検査は精度が劣るため原則としておこなうべきではありません。問診から必要な項目を絞り出して「単品」の検査をすべきです。
第2位 鎮痛薬はできるだけ飲まない
多くの痛みには鎮痛薬を気軽に飲むべきではありません。鎮痛薬のCMに影響を受けすぎないでください。気軽に飲んでいい鎮痛薬はありません。すべての鎮痛薬には「依存性」があります。さらに、薬局で売っている一部の鎮痛薬には「ブロモバレリル尿素」という極めて依存性の強い成分が含まれています。また、鎮痛薬には副作用も少なくありません。胃痛が有名ですが、腸炎もおこしますし、短期間でも腎臓が急激に悪くなることがあります。長期使用で腎臓の他、心臓にも負担がかかります。さらに血圧が上がることもあります。しかし、鎮痛薬をいきなり止めると症状が余計に悪化することもあります。診察では、鎮痛薬を効果的かつ安全に減らしていく方法を考えていきます。
参考:http://www.choosingwisely.org/patient-resources/medicines-to-relieve-chronic-pain/
メディカルエッセイ第97回(2011年2月)「鎮痛剤を上手に使う方法」
はやりの病気第96回(2011年8月)「放っておいてはいけない頭痛」
第3位 ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬(安定剤)は可能な限り使わない
以前、ある患者さんから次のような言葉を聞いて愕然としたことがあります。
「一番弱いと聞いたマイスリーをください。深夜便の飛行機に乗るんです・・・」
マイスリーはとても依存性の強い薬で安易に手を出してはいけません。また記憶喪失もかなりの確率で起こります。以前、東京の主婦が意識がないままわが子を殺めた事件はこのサイトでも紹介しました。また、マイスリーだけが危険というわけではありません。むしろマイスリーは、上記の患者さんが言うように比較的”弱い”ともいえます。ベンゾジアゼピン系(広い意味ではマイスリーも含みます)の薬剤は飲まないに越したことはありません。また65歳以上は原則禁忌(飲んではいけない)です。不眠や不安症は薬は最低限にし、どうしても使わなければならないときはベンゾジアゼピン系以外のものをまずは検討します。
しかしながら、ベンゾジアゼピン系にすでに依存してしまっている人は、他の薬に置き換えてもたいていはうまくいきません。この場合、他の薬を併用しながらベンゾジアゼピン系を少しずつ減らしていくことが必要です。
参考:http://www.choosingwisely.org/clinician-lists/american-geriatrics-society-benzodiazepines-sedative-hypnotics-for-insomnia-in-older-adults/
はやりの病気第164回(2017年4月)「本当に危険なベンゾジアゼピン依存症」
はやりの病気第151回(2016年3月)「認知症のリスクになると言われる3種の薬」
メディカルエッセイ第165回(2016年10月)「セルフ・メディケーションのすすめ~ベンゾジアゼピン系をやめる~」
はやりの病気第124回(2013年12月)「睡眠薬の恐怖」
第4位 性感染症の検査は適切なタイミングと費用をよく考える
これは他の項目と少し趣が違うのですが「ムダな医療」という意味で要望の多いものです。性感染症の多くは無症状であり、リスクのある行為があったならいずれ検査をしなければならないのは事実です。ですが、検査のタイミングと費用をよく考えなければなりません。検査方法にもよりますが、リスクのある行為からすぐに検査しても正確な結果はでません。また、多くのケースで自費診療になりますから、どこで検査を受けるのかもよく検討すべきです。保健所などで実施している無料検査をまずは考えるべきですし、医療機関で受ける場合も費用を考えて出費を抑えるようにしましょう。当院の経験で言えば、感染してたらどうしよう・・・、という焦りの気持ちが強いからなのか「お金は出すからとにかくすぐに検査してください!」と声を荒げる人がときどきいます。ですが、やっても信頼できない検査は初めからすべきではありません(尚、性感染症の検査を医療機関で受ける場合、当院のような総合診療のクリニックよりも性病科(あるいは性病を中心に診ている施設)の方が安い可能性があります)。
第5位 ほとんどの風邪に抗菌薬は不要
「風邪」の定義を「急性の上気道炎症状(咽頭痛、咳、鼻水、痰など)」とすると、全体の9割以上はウイルス感染で抗菌薬は有害にしかなりません。診察でウイルス性か細菌性かをしっかりと見極め抗菌薬は必要例のみに用いるべきです。細菌性であったとしても、軽症の場合は抗菌薬を使用すべきでないことも多々あります。抗菌薬をできるだけ使わないようにすべきである理由は主に2つあります。1つは「副作用」(下記参照)、もうひとつは「薬剤耐性菌」を生み出すリスクです。副作用に関しては、例えば患者さんからの”リクエスト”が多いクラビットの副作用はこれだけあります。「風邪を引いたからクラビットをください」と主張する初診の患者さんが今もときどき受診しますが、実際に抗菌薬が必要な(細菌性の)風邪は1割未満であり、クラビットが必要な風邪というものはほとんど存在しません。
参考:http://www.choosingwisely.org/clinician-lists/acep-antibiotics-in-the-ed-for-sinusitis/
メディカルエッセイ第185回2018年6月号「ウイルス感染への抗菌薬処方をやめさせる方法」
毎日新聞医療プレミア「その風邪、細菌性? それともウイルス性?」(2015年11月22日)
毎日新聞医療プレミア「第3世代セフェムはなぜ「乱発」されるのか」(2017年10月1日)
第6位 点滴や注射は必要最小限に
・抗菌薬の点滴が必要な例は細菌感染の最重症例のみです。
・疲れたときの点滴には意味がありません。点滴で元気になることは確かにありますが、たいていはブドウ糖により血糖値が上昇するからであり、甘い物を食べたときと(少なくとも理論上は)変わりません。
・ニンニク注射、高濃度ビタミンCなどは実際に「うてば調子いい」という人がいますから否定はしませんが、エビデンス(科学的確証)がなく、当院では依頼されても実施しません。
参考:メディカルエッセイ 第146回(2015年3月)「Choosing Wisely(不要な医療をやめる)(後編)」
第7位 細菌性でもほとんどの下痢に抗菌薬は不要、ノロウイルスは検査も不要
急性の下痢で受診する人の多くは「感染性胃腸炎」で、冬は圧倒的にウイルス感染が多く抗菌薬は不要です。夏は細菌性の方が頻度としては増えますが、抗菌薬を要するような重症例はわずかです。生の肉やタタキからよく感染するカンピロバクター、サルモネラ、(ほとんどの)大腸菌は、健常者であれば抗菌薬不使用でたいてい治癒します。魚介類から感染する腸炎ビブリオの場合も抗菌薬を要するケースは少数です。また、ノロウイルスは健常人であれば検査自体が不要です。
問題はアジアなどに渡航するときで、たしかにアジアに長期で滞在しているような欧米の旅行者は複数種の抗菌薬を持っていることがあります。当院でも、例えば医療者がインドにボランティアに行くときなどは処方することがありますが、これはあくまでも例外です。
参考:はやりの病気第160回(2016年12月)「choosing wiselyで考えるノロウイルス対策」
毎日新聞医療プレミア「医師がノロウイルスの検査を勧めない理由」(2017年1月8日)
第8位 腫瘍マーカーはほぼムダ
健診などでときどき実施されている腫瘍マーカーのほとんどはまったく不要でムダな検査の代表とも言えます。例外的に”実施してもいい”のは、前立腺がんのPSAですが、これも「推奨しない」という意見もあります(下記参考文献参照)。もうひとつ、胃がんに対するペプシノーゲンというマーカーはピロリ菌の検査と同時に実施すればある程度は評価できるという意見はあります。
参考:厚労省研究班・国立がん研究センターによるがん検診有効性評価ガイドライン
メディカルエッセイ第158回(2016年3月)「「がん検診」の是非」
メディカルエッセイ第179回(2017年12月)「これから普及する次世代検査」
第9位 ほとんどの頭痛にCT、MRIは不要
頭をぶつけても多くの場合CTやMRIの撮影は不要です。必要なのは、意識消失、嘔吐、麻痺症状(飲み込みにくい、呂律が回らない、手足が動かしにくい)などがあるとき(あったとき)です。直後のみならず、ぶつけてから1カ月以上たってからでも症状が出現した場合は検査が必要です。
頭痛で最も頻度が多いのは筋緊張性頭痛ですがたいていは軽症です。医療機関を受診されるのはそれなりに重症例であり、当院でいえば最も多いのは片頭痛です。片頭痛ではCTでもMRIでも異常がありません。ですから、片頭痛が疑われたときは原則として画像検査は不要です(脳腫瘍や脳血管障害を除外したいときだけ撮影します)。 尚、当院にはCTやMRIの器械を置いておらず、必要な場合は近くの画像専門クリニックに紹介状を持参して行ってもらうことになります。
第10位 ほとんどの腰痛にレントゲンは不要。もちろんMRIも
腰痛以外に症状がなければほとんどのケースで不要です。必要なのは、例えば、患部の熱感が強いとき、発熱があるとき、夜寝られないような痛み、下肢に痛みが波及するとき、下肢にしびれや麻痺症状があるとき、などで、こういった症状がなければ、少なくとも6週間は何もせずに(あるいは最小限の湿布、ジェル、内服鎮痛薬で)経過をみるべきです。
更新:2018年6月14日