B型肝炎ウイルス(HBV)とは
B型肝炎ウイルス(以下HBV)は、比較的簡単に性感染し急性肝炎をきたすことがあり、さらに劇症肝炎に移行することもあります。いったん劇症肝炎となれば、かなりの確率で死に至る感染症です。潜伏期間(感染してから症状が出現するまでの期間)は1~6ヶ月です。
また最近では、症状は軽度(もしくは無症状)ではあるものの、ウイルスがかなり長期間体内に残る(慢性化する)タイプのものが増えてきており問題となっています。こうなれば、将来肝硬変や肝臓ガンになるリスクが増えるばかりか、他人にうつしてしまう可能性もでてきます。
しかし、幸いなことにHBVにはすぐれたワクチンがあります。血液感染以外にも、比較的簡単に性感染するウイルスですから、全員がワクチンを接種しておくのが理想です。世界的にはほとんどの国で90年代より定期接種化されていましたが、日本では2016年9月まで「任意接種」でした。したがって、現在も日本では、医療従事者や(コンタクト)スポーツの選手などを除けば接種している人は多くないのが現状です。
谷口医院では、性交渉のある年齢のほとんどの方にHBVワクチン接種を推奨しています。年齢を重ねれば、それだけ抗体ができにくくなりますから、できるだけ若いうちに接種しておくことが望ましいと言えます。HBVワクチンは、副作用はほとんどありませんが、およそ半年をかけて2~3回接種しなければなりませんし、保険適用はなく全額自己負担になりますから、充分ご理解をいただいた上での接種となります。
◆B型肝炎ウイルス(HBV)の抗原・抗体とは?
人の体内では、細菌やウイルスなどの異物(抗原)が体内に侵入したとき、これを攻撃する物質(抗体)がつくられます。
【HBs抗原】HBV感染の有無を判定する際に調べる。
【HBs抗体】HBs抗原に対する抗体。過去にHBVに感染したがウイルスが排除されている場
合や、HBVワクチンを接種すると陽性(+)になる。
「HBs抗体が陽性(+)」といわれる状態は、HBVに対する免疫ができていることを示します。
HBVワクチンは体内にHBVに対する抗体を作り、HBVの感染を予防します。
◆B型肝炎のワクチン接種方法
初診:血液検査(抗原検査+抗体検査)、1回目のワクチン接種
まずは、あなたがHBVに感染していないか(していたか)どうかを調べます。(これを「抗原検査」と呼びます)
HBVを持ち続けている人のなかには母子感染によるものもあります。ですから、親族が肝臓の病気で亡くなったという人はこのウイルスを持っている可能性があります。母子感染をしていても自身が気付かないまま抗体ができて治癒していたという可能性もあります。この場合、ワクチンを接種する必要はありません。
また、成人してから性感染などでHBVに感染したものの、自然に抗体ができて治癒していた、というケースもあります。この場合は新たにHBVに罹患することはありませんが、注意すべきことがあります。下記Q&A(3)を参照ください。
このように、一部には自然に抗体ができておりワクチンが不要な人もいますが、ワクチンを接種する前には、原則として、ウイルスの有無(抗原検査)と抗体の有無を確認(抗体検査)しておきます。
特に健康上に問題のない方の場合、「抗原検査+抗体検査→1回目のワクチン接種」はその日におこなえます。ワクチンは筋肉注射です。量は0.5mLです。
当院で扱っているワクチンは日本製の2種類、「ヘプタバックス」と「ビームゲン」です。どちらも効果は同等とされています。尚、当院では未認可の輸入ワクチンは取り扱っていません。
第2回:2回目のワクチン接種(第1回から4週間が経過した頃)
2回目のワクチンを打ちます。1回目と同じもので、量も同じです。
第3回:3回目のワクチン接種(第2回から5ヶ月が経過した頃)
3回目のワクチンを打ちます。1,2回目と同じもので、量も同じです。
第4回:血液検査(第3回から1ヶ月が経過した頃)
抗体がつくられたかどうかを確認するため血液検査(抗体検査)をおこないます。この時点で抗体 ができる確率は約95%と言われています。(ただし年齢・性別によってこの数字は異なります。一般的に若い女性ほど抗体ができやすい傾向にあります)
第5回:結果報告(第4回から当日~1日後)
血液検査の報告をお伝えします。
●Q&A
(1)抗体がつくられた後、定期的にワクチンを打たなくてもいいの?
2024年11月15日、日本環境感染学会が方針を変更しました。過去のガイドラインでは「免疫獲得者に対する経時的な抗体価測定や、免疫獲得者の抗体価低下(10 mIU/mL 未満)に伴うワクチンの追加接種は必要ではない」としていましたが、ガイドライン第4版では「しかし、HBs抗体が低下した場合に HBV 曝露後に HBV DNA が陽性になったり、免疫抑制下において HBV 再活性化が起きるという報告もあり、一部の医療機関では血液体液曝露のリスクがある医療関係者に対して、免疫獲得者に対する経時的な抗体価測定や、免疫獲得者の抗体価低下にともなって追加接種を行っている。本ガイドラインは既に十分な体制が取られている医療機関でのこのような実践を否定するものではない」と付記されています。
つまり、「定期的に抗体価を調べて追加接種を検討すべき事例もある」ということです。当院では、上記ガイドラインが公表されてから、免疫能が低下している人やハイリスクの人に対してはこの方針を実施しています。
(2)HBVワクチンを3回接種したけれど、抗体がつかなければどうすればいいの?
ワクチンの製造会社をかえるという方法があります。現在国内に流通しているHBVのワクチンは2社によって製造されていますので、もう一方の製造会社のものをあらためて3回接種します。
当院のこれまでの結果では、最初のワクチンを3回接種して抗体ができないことが2-3%、その2-3%の人に別のメーカーのワクチンを3回接種して抗体ができる人がおよそ95%です。
(3)ワクチンを接種していないのに抗体(HBs抗体)陽性で「ワクチン接種は必要ない」と言われました。気をつけることはありますか?
この場合、ほとんどのケースでは生涯何事もおこらないのですが、厳密に言えば少し注意が必要です。最近は、すぐれた抗がん剤や、リウマチの新しい治療薬(生物学的製剤)、また様々な疾患に対する優れた免疫抑制剤が使われることが増えてきており、こういった薬剤を使用すると自然治癒したはずのウイルスが再び活性化することがあります。したがって、このような薬を使う場合はあらかじめHBs抗体の有無とワクチン接種歴を確認することになります。
なぜ自然治癒したはずのウイルスが再び活性化するかというと、HBVが逆転写酵素を持っているからです。逆転写酵素というものがあると、自分の遺伝子をヒトの遺伝子に植えつけることができるのです。ヒトの免疫で駆逐されたはずのHBVは完全に死滅したのではなく、実はヒトの遺伝子のなかに潜り込んで生きていたというわけです。ですから、従来は、「抗体(HBs抗体)が形成されていれば二度とB型肝炎の心配をする必要はありませんよ」、という説明でよかったのですが、最近では、免疫を抑える薬を使用する際には、過去のHBV感染についても考慮しなければならなくなったのです。尚、逆転写酵素をもつウイルスは他にHIVとHTLV-1が有名です。
(4)HBVに感染したかもしれません。何日くらいあければ検査ができますか。
次のような報告があります。
・NATの場合
34日(Schreiber GB 他、N. Engl. J. Med. 1996)
ジェノタイプCで35~50日、ジェノタイプAで55~76日(Komiya Y他、Transfusion. 2008)
・HBs抗原の場合
59日(Schreiber GB他、N. Engl. J. Med. 1996)。
ジェノタイプCで50~64日、ジェノタイプAで69~97日(Komiya Y他、Transfusion. 2008)
これらのデータに従うとすれば、NATで76日間、HBs抗原検査で97日間、あけなければならないことになります。ですが、これらの研究はごく微量のウイルスが感染し、最も長くかかる場合を調べたものです。当院の患者さんでみてみると、性感染で感染した場合、NATなら10日程度で検出された例がありますし、HBs抗原の場合も4週間程度経過していればほぼ全例が陽転化しています。これらを踏まえて、どのタイミングでどの検査をおこなうか、再検査をおこなうかどうか、おこなうとすればいつが適切かといったことについて症例ごとに検討することになります。
尚、C型肝炎ウイルス(HCV)の場合、感染してからHCV抗体が3.3カ月で陽性になるというチンパンジーの実験があります(ヒトではデータがありません)。しかし、HCV抗原検査(HCVコア蛋白)なら10日以上経てば陽性になるという研究があり(Tanaka J他、Intervirology. 2005)、NATをおこなうまでもありませんし、当院の例でいえば、感染して4週間もすればHCV抗体が陽性になっていることがほとんどです。これらを踏まえて、1回目の検査を実施し、再検査の必要性を個別に検討することになります。
参考:血液製剤等に係る遡及調査ガイドラインQ&A
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/iyaku/kenketsugo/dl/5anzen4c.pdf
(5)ワクチン開始時には感染していませんでしたが、3回接種までに感染してしまったかもしれません。抗体ができたときに、それがワクチンによるものなのか、感染によるものなのかを調べることはできますか。
できます。ワクチン接種でも感染でもHBs抗体は陽性になります。しかし、HBc抗体は感染すれば陽性になりますが、ワクチン接種では陰性のままです。よって、HBs抗体が陽性であることを確認した上で、HBc抗体の有無を調べれば区別はつきます。
2024年11月18日
TIC谷口医院
院長 谷口恭
「かかりつけ医をもとう」
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