ぜんそく・咳ぜんそく

増えているアレルギー疾患のなかで、花粉症、アトピー性皮膚炎とならんで多いのが気管支喘息(ぜんそく)です。近年急速に普及したステロイド吸入薬の成果もあって、副作用を考慮しなければならない内服薬の使用が大きく減少し、気管支喘息は、完治が難しいケースはあるものの、適切に薬を使用すれば、コントロールが簡単になってきました。

しかしながら、一方では、医療機関を受診せず、あるいは適切な薬の使用を怠ったがために呼吸困難をきたして救急搬送されたり、最悪の場合は死亡したりすることもありえます。現在の日本でも年間千人以上の患者さんが気管支喘息で死亡しています。

気管支喘息は、きちんと治療すればほとんどがコントロール可能な病気です。ここでは、日頃患者さんから聞かれる代表的な質問についてまとめてみたいと思います。

Q1 喘息はなぜ起こるのですか

A1 喘息は2つの要因が重なったときに起こりえます。ひとつは体質で、遺伝(アトピー因子)によるものです。両親のどちらかに喘息の既往があると、子供に喘息の症状が出てくる場合があります。しかしながら、必ずしも親が喘息だから子供も喘息になるというわけではありません。

もうひとつの要因はいわゆる「環境因子」で、ホコリやダニ、ペットの毛などを吸い込むことによって起こります。こういった物質(これを「アレルゲン」といいます)が気道のなかに入ると、気道の粘膜が「炎症」をおこします。「炎症」とはその部分の組織が腫れ上がることで、やけどを思い出せばイメージがわくでしょうか。

気道に炎症がおこった結果、気道が細くなってしまいます。このため呼吸が苦しくなって、これが重度になるといわゆる「喘息発作」を起こします。

Q2 喘息は増えているって聞いたんですが・・・

A2 増えているのは事実です。最近の特徴として、成人してから喘息を発症する人も増えてきています。ただし、はやりの病気第159回(2016年11月)「喘息の治療を安くする方法」で述べたように、いい薬が普及したおかげで、喘息の死亡者・入院者は劇的に減少しています。

Q3 喘息はどのように診断するのですか

A3 医療機関を受診すれば簡単に診断がつきます。症状が出ているときは聴診で特有の音が聞かれますし、問診だけでもかなりのことが分かります。一般的には呼吸機能検査を実施し、必要があれば血液検査やレントゲン検査を合わせて総合的に診断します。

Q4 喘息の治療はどのようにするのですか

A4 程度にもよりますが、ごく軽症であれば定期的に薬剤を飲んだり吸ったりする必要はありません。生活環境に気をつけて、いざというときに使えるように、気道を速効広げることのできる吸入薬を携帯してもらいます。生活環境の改善は薬よりも遥かに重要です。

ただし、この吸入薬が必要な状態であれば定期的な吸入薬が必要になります。最近は質の良い吸入ステロイド薬(ICS)が普及したため、喘息のコントロールが随分おこないやすくなりました。「ステロイド」というと何か恐いイメージを持っている人がおられますが、吸入ステロイドはほとんど血中に吸収されませんから副作用を心配する必要はそれほどありません。必要な気道にのみ作用するのです。ただし、口のなかにある程度のステロイドが残りますから使用後はうがいをおこなう必要があります。

しかし、症状が強いときに吸入ステロイド薬だけを用いても普通は改善しません。通常は長時間作用型の気管支拡張薬(LABA)との合剤を用います。改善すればステロイド単独の吸入薬に切り替えます。貼り薬や飲み薬を併用したりすることもありますが、喘息の治療の基本は吸入ステロイドです。実際、喘息の死亡率が急減したのはステロイド吸入薬が普及したからです。一方、ステロイドの飲み薬が必要になることはほとんどありません。

重症の場合は、下記を検討することもあります。

Q5 主治医の指示どおりに薬を使用していれば発作は確実に防げるのですか

A5 残念ながら喘息発作は、100%防げるわけではありません。それは環境因子に影響を受けるからです。たとえば、普段はまったく症状がないのに、タバコの煙を吸い込んだり、空気の汚いところに行ったりして、突然喘息発作が出現することがあります。このため、速効性のある気管支拡張作用のある吸入薬を携帯してもらうことが多いのです。また、それでも改善しない場合や、呼吸困難の程度が大きい場合は躊躇せずに救急車を呼ぶことが必要です。

Q6 喘息があっても海外旅行に行けますか

A6 症状が落ち着いていれば海外旅行も可能です。しかしながら、現地で症状が悪化することもありますから、定期薬だけでなく症状出現時の吸入薬や、場合によっては内服ステロイドも持参すべきです。状態が悪化し現地の医療機関を受診しなければならなくなることも想定し、ご自身の薬やこれまでの経過などについて英語で言えなければなりません。一番いいのは、あらかじめ主治医に英文の紹介状を書いてもらってパスポートなどにはさんでおくことです。

また飛行機でも注意が必要です。機内は空気が乾燥しており気圧が低く、喘息発作が生じやすい状態となっています。発作時の吸入薬はもちろん、内服ステロイドも持参しておいた方がいいでしょう。

詳しくは、旅行医学・英文診断書など(http://www.stellamate-clinic.org/kaigaitoko-travelclinic/)を参照ください。

2021年8月1日更新
T.I.C.谷口医院
院長 谷口恭