熱中症について

熱中症について

数年ほど前から、夏になると「熱中症で○○○人が救急搬送、死亡も○名」などのような新聞記事が目立ちます。太融寺町谷口医院にも、夏になると熱中症で受診される人がいます。熱中症を疑ったとき、谷口医院の近くにおられれば受診してもらいたいのですが、熱中症は予防可能な疾患ですから日頃の対策が重要です。

○熱中症の分類

熱中症については、はやりの病気第14回(2005年8月)「熱中症」でも予防や対処法について述べているのですが、現在はその頃とは熱中症の分類が変わっています。以前は、熱中症を「日射病」「熱痙攣」「熱疲労」「熱射病」の4つに分類し、それぞれに適した対処法を実施するのが一般的でした。

それが、ちょうど上記コラムを書いた直後くらいから新しい分類が提唱されるようになり、今ではその新しい分類が一般的になっています。新しい分類の方がずっと簡単で便利ですのでまずはそれを紹介したいと思います。新しい分類はⅠ度、Ⅱ度、Ⅲ度の3つで、数字が大きくなるほどより重症となります。(旧分類に比べて簡単ですね)


I度(軽症) 大量の汗が出て、めまいや立ちくらみ、筋肉痛、こむら返りなどが起こることがあります。この場合、意識がしっかりしていて、体温上昇がなく、次に述べるⅡ度の症状が出ていなければ医療機関受診をあわてる必要はありません。まずは陽のあたらない涼しい場所に移動し水分を補給しましょう。可能であれば塩分摂取も検討しましょう。

II度(中等症) ポイントは体温が上昇しているかどうかです。上昇しているなら直ちに医療機関を受診しましょう。場合によっては救急車要請も検討してください。症状としては、頭痛、吐き気、嘔吐、脱力感などです。可及的速やかな補液(点滴)が必要になります。

III度(重症) Ⅱ度がさらに進行したときの状態でかなり危険です。39度を超える高熱、けいれん、意識の低下なども起こりえます。この状態では迷わずに救急車を呼ばなければなりません。

○熱中症の予防

熱中症を予防するには、まずどのようなときに熱中症になりやすいかを知っておく必要があります。注意すべきなのは以下のようなときです。

・ 炎天下や気温が高いとき
・ 湿度が高いとき(必ずしも気温が高くなくてもおこりえます)
・ 風がないとき
・ 激しい運動や、体を動かす作業をするとき
・ 汗をおさえる作用や、利尿作用のある薬を服用しているとき
・ アルコール摂取時(分解の為に体内で大量の水が使われるため)
・ 油分の付着した作業着など、通気性の悪い服を着ているとき
・ 太っている人(皮膚が重なり合って汗が十分に出ないことがあります)
・ やせすぎている人(少しの発汗で体内の水分の割合が減ってしまいます)
・ 高齢者(脱水に気づきにくい)
・ 薬を飲んでいる人(具体的な薬剤については下記コラムを参照ください)

○水分摂取と塩分摂取について

熱中症対策の水分と塩分摂取について、理論上一番いいのは「OS-1」と呼ばれる経口補水液を飲むことです。「OS-1」はWHO(世界保健機関)の提唱する経口補水療法(Oral Rehydration Therapy; ORT)の考え方に基づいた飲料で、熱中症の予防にも適しています。

最近は通販や普通のスーパーなどでも「OS-1」が比較的簡単に買えるようになってきているようですが、スポーツドリンクほどは普及していません。そこで、スポーツドリンクに少し手を加えるという方法もあります。「OS-1」と比較すると、一般のスポーツドリンクでは塩分がやや少ないので、500mLのペットボトルなら、小さじ1/6~1/4杯くらいの塩を入れるのがいいとされています。水からも同様のものをつくることができます。水1リットルに塩小さじ1/2杯と砂糖大さじ4~5杯を加えれば簡易版「OS-1」の出来上がりです。

しかし、「手元にOS-1がなくて探し回っているうちに熱中症が悪化した」、となるのでは困りますし、水道水に塩と砂糖を入れてつくる、というのも面倒です。暑くて熱中症になるかもしれない、というときにそのようなものをつくる気力はでてきません。多少塩分(ナトリウム量)が少ないですが、よほど急激に脱水が進行する場合でなければ、スポーツドリンクをそのまま飲むという方法でいいでしょう。

では、最低限の熱中症対策用ドリンクをスポーツドリンクと考えるべきなのでしょうか。電解質の制限を指導されているような腎臓の病気や糖尿病がなければそれで問題ないでしょう。糖尿病で糖分を制限すべきなのに、脱水の予防にスポーツドリンクを飲みすぎて糖尿病が悪化するという場合があります。糖尿病や腎疾患のある人は、脱水や熱中症の対策をどのようにするかは、あらかじめ主治医と話し合っておくべきです。

それでは、糖尿病や腎疾患がない人の場合、とにかくスポートドリンクを飲めばいいのでしょうか。理論的にはそれでかまわない、となるかもしれませんが、これは現実的には多くの人にとってむつかしいでしょう。スポーツドリンクばかりを飲んでいるとそのうち飽きてきて、他の飲み物がほしくなってきます。

では、どうすればいいのでしょうか。私がよく勧めるのは、「何でもいいから(アルコール以外の)水分を摂りましょう」という方法です。まず脱水を防がなければなりませんからとにかくどのようなものでも水分を摂るべきで、激しいスポーツや下痢などで急激に脱水が進行する場合を除けば、塩分のことは置いておいて水分摂取を優先すべきです。

「何でもいいから」よりもう少し合理的に考えるならば、利尿効果の少ないものを選びましょう。アルコールは論外ですが、カフェインが多量に含まれるものも尿がたくさんでてかえって脱水が促進する、ということになるかもしれません。ですからお茶を飲むなら、紅茶や烏龍茶より麦茶を選ぶべきということになります。昔の日本人は夏には麦茶に塩を入れて飲んでいたそうですが、これは大変理にかなった「夏バテ予防ドリンク」です。

ところで、水分が充分とれているかどうかはどのように評価すればいいでしょうか。「喉が渇かなくなった」というのは確かにひとつの指標になりますが、喉の渇きというのは精神状態やその日のコンディションに影響を受けますからあまり当てになりません。また、1時間に○○mLの水分摂取、という考え方は、運動量や気温、湿度、コンディションなどに影響を受けますから現実的ではありません。

一番おすすめなのは「尿の色を参考にする」という方法です。理想の尿の色は透明にうっすらと色がついている状態です。濃い黄色であればそれは脱水状態になっている可能性があります。(ただし一部の薬剤やビタミン剤などを内服している場合は、脱水にならなくても濃い黄色になることがあります。ビタミン剤の有用性はほとんど証明されていませんが、脱水の鑑別に使えなくなる、というデメリットがあることは覚えておくべきでしょう)

水分摂取はできたとしても塩分はどうするの?、という問題に答えておきたいと思います。結論を言えば、塩分は食品から摂ればそれでいいのです。まず、多くの日本人は日頃から塩分過多であることを知っておきましょう。厚労省のデータ(2008年)によると、日本人の1日あたりの平均塩分摂取量は、男性で11.9グラム、女性で10.1グラムです。同省は目標を男性9グラム、女性で7.5グラムとしていますが、これは世界的にはかなり多く、国際水準では6グラムが一般的ですし、日本人でも高血圧や慢性腎臓病があれば6グラム以下にしなければなりません。つまり、汗をかいて多少塩分が消失しても日頃多くの塩分を摂っている人はそれほど塩分不足にはならないのです。

ただし激しいスポーツ(や激しい下痢)などのときは注意しなければなりません。水分を塩分ゼロのものにするのであれば、クラッカーやチーズなどを時々口にするのがおすすめです。ちなみに私の場合、トレッキングや登山をおこなうときは、現地の湧き水を美味しく飲みたいためにスポーツドリンクなどはあえて持っていきません。そこでクラッカーやミックスナッツを美味しい水の「あて」として食べるようにしています。(サラミやチーズはアルコールが欲しくなるためにあまり持って行きません。また話は脱線しますが、美味しい湧き水でつくるコーヒーは最高に美味しいので「モンカフェ」のような1杯ごと作れるレギュラーコーヒーを持っていきます)

夏バテ

○夏バテの予防

 夏バテを予防するのに一番大切なのは、(つまらない正論を言うようですが)「規則正しい生活をする」に限ります。少量でもいいから3食食べる、睡眠時間をしっかりとる、適度な運動を続ける、過労に注意する、などです。そして、熱中症や脱水に注意しましょう。食べたり飲んだりすればそれだけで夏バテ予防ができる、といった夢の食品や薬があるわけではありません。

○夏バテの治療

 ダルさがとれない、食欲がない、めまいがする、などといった場合、治療が必要になるかもしれませんので受診を検討すべきでしょう。このときに最も大切なのが、「その症状、本当に夏バテによるものなのか」ということです。例えば、「夏バテで身体がダルイ。点滴打ってほしい」と言って受診された人が、実は心筋梗塞だった、というような例が当院にもあります。

 心筋梗塞のような重要な病気がないことを確認して、夏バテであることが確定したとき、まずは休養をとり規則正しい生活を心がけることが重要ですが、場合によっては漢方薬が有効なことがあります。2007年の開院以来、当院では夏バテに対して様々な漢方薬を処方してきましたが、現在最もよく処方されるのが下記の3つです。


補中益気湯:全国的にもこれが夏バテに最もよく処方されていると思います。術後や過労で倦怠感が続いているときなどによく用いますが、身体がダルくて元気がでない、というタイプの夏バテにも有効であることが多いと言えます。

六君子湯:夏バテで最も困っている症状が食欲がないこと、というケースによく用います。西洋薬の胃薬であまり効果が得られないような胃症状にもよく効くことがあります。

・白虎加人参湯:熱がこもって顔面が赤くなるようなタイプの夏バテに用います。

多汗症

年々相談されることが増えてきているのが多汗症です。多汗症はなかなかむつかしい疾患で治療に難渋することが少なくありません。夏バテにはとても有効な場合がある漢方薬も、多汗症に対しては上手くいかないことも多いと言えます。

しかし、対処法がないわけではありません。

○制汗剤の使用

巷には様々なタイプの制汗剤が販売されていますが、医療機関で最も推薦されることの多いのが「ケイセイ社」のディーバー(D-bar)という制品です。スティックタイプのものとチューブタイプのものがあります。クリニックで販売しているところもあるようですが、当院では販売していません。下記URLはAmazonの関連ページです。

ディーバー(D-bar)【制汗スティック におい ケア デオドラント】

ディーチューブ(D-tube)【におい ケア デオドラント クリーム 】

○ワキにはボトックス注射

2013年より、ワキ(腋窩)の重症例にボトックス注射が保険適用になりました。当院では実施していませんが、少しずつ実施する医療機関が増えてきているようです。詳しくはGSK社が提供している下記のサイトを参照ください。

「ワキ多汗症サイト」
http://waki-ase.jp/smp/

尚、以前はワキの重症例には手術がすすめられていましたが、術後ワキの汗は減ったけれど替わりに下半身の汗が増えた、といったトラブルが少なくなく、最近はあまりおこなわれていません。

○その他

手のひらのみ、足の裏のみ、顔面のみ汗がでて困っている、というケースの治療は簡単ではありません。女性で月経前症候群(PMS)や更年期障害のひとつの症状として出現している場合は漢方薬やピルが効くこともありますが、他の症状は抑えられたのに汗だけは治らない、となることもあります。