トランスジェンダーの治療 / Treatment for Transgender

当院では、日本よりもむしろ海外のガイドラインに合わせた治療を実施しています。


☆トランス女性(MtoF)☆

日本では注射を使う人が多いのですが、世界的には内服薬または貼付薬が主流で注射薬はほとんど使われません。その最大の理由は、注射薬の場合は血中の女性ホルモンの値が安定しないことです。よって当院では内服薬または貼付薬を中心とし、注射薬は例外的な処方としています。また、(なぜか)日本では黄体ホルモン(プロゲステロン)の注射も使われている人がいるのですが、子宮がない人に対する黄体ホルモンは不要です。

<処方例>

#1 エストラジオール(内服薬) 4~14錠/日(2mg~7mg)
#2 エストラーナテープ0.72mg(貼付薬) 1~3枚を2日に1枚
#3 プロギノンデポー10mg(注射薬)1~2Vを1~2週に1回 (2,000円/V)

#4 スピロノラクトン50mg 2~4錠/日(上記#1、#2、#3のいずれにも併用できます)

<理想のホルモン値>

・血中エストロゲン(E2)濃度:95~200pg/mL (350-750pmol/L)
・血中テストステロン濃度:0.3-1.0ng/mL (30-100ng/dL)(*Ref.#3)

◇検査費用◇
血中テストステロン1,800円 血中エストロゲン(E2)(エストラジオール):2,200円 血中テストステロン+血中エストロゲン(E2):3,900円

 

<他の検査項目>

・血中プロラクチン濃度:18.8ng/mL(400mU/L)未満
(注:トランス女性がホルモン治療を受けると、血中プロラクチン濃度が上昇することがあります)

・d-dimer: ホルモン剤の副作用で血栓が疑われたときに調べます
・肝機能、腎機能、血圧、血糖値、HbA1C、中性脂肪など
・甲状腺機能:必要に応じて実施します
・乳腺超音波検査(乳がん検査):必要に応じて実施します
・性感染症の検査:必要に応じて実施します

<注意すべき副作用>

血栓症、肝機能障害、乳がん、高脂血症など

 

☆トランス男性(FtoM)☆

ポイント:トランス女性(MtoF)の場合とは異なり内服薬は無効です。外用薬は輸入品なら処方できなくはないのですが値段が高すぎて現実的ではありません。そこで注射がお勧めです。

<処方例>

Testosterone Undecanate 1,000mg 12週毎(10~20週毎) (11,000円/回)

<理想のホルモン値>

テストステロン:
 注射前 2.30~3.5ng/mL (8~12nmol/L)
 注射1週間後 7.2~8.6ng/mL (25~30nmol/L)

エストラジオール:19pg/mL(70pmol/L)未満

◇検査費用◇
血中テストステロン1,800円
血中テストステロン+血中エストロゲン(E2):3,900円


<他の検査項目>

・血中プロラクチン濃度:23.5ng/mL(500mU/L)未満
・肝機能、腎機能、血圧、血糖値、HbA1C、中性脂肪、電解質、TSH、など
・骨密度:目安として50歳以上を超えれば定期的に計測すべきです
・性感染症の検査:必要に応じて実施します


<注意すべき副作用>

男性型脱毛症(AGA)、ニキビ、肝機能障害、多血症、体重増加、高血圧、高脂血症、肝機能障害、精神疾患、骨粗しょう症、睡眠時無呼吸症候群、乳がんなど


参考文献:
#1 英国のトランス女性のガイドライン
#2 英国のトランス男性のガイドライン
#3 Practical Guidelines for Transgender Hormone Treatment
#4 Position statement on the hormonal management of adult transgender and gender diverse individuals