生活習慣病/メタボリックシンドローム

日本人の生活習慣病罹患者は増える一方ですし、最近ではメタボリックシンドロームという言葉が定着してきました。以前はこういった疾患は「成人病」と呼ばれており、中年以降の病気とされていましたが、最近は30代の生活習慣病罹患者はまったく珍しくなくなり、なかには20代前半の人でも高脂血症や高血糖を抱えている人がいます。

おそらく今後も増加の一途をたどるでしょうし、少し油断すれば誰もが罹患してしまう可能性があると言えるでしょう。そして、生活習慣病やメタボリックシンドロームが恐ろしい本当の理由は、自覚症状がないまま病状が進行し、気付いたときには心筋梗塞や脳梗塞といった命にかかわる病におかされているということです。ここでは、これらの疾患に関するよく受ける質問をQ&A方式で答えていきたいと思います。

Q1 メタボリックシンドロームって何なのですか?

A1 簡単に言えば、肥満、高血圧、高血糖、高脂血症の4つ(もしくは2つ以上)を合併した状態です。これらのいずれもが元々動脈硬化のリスクになるのですが、それぞれが軽症な場合であっても合併することで相乗効果的に動脈硬化が進行するのがメタボリックシンドロームなのです。動脈硬化が進行すれば、心筋梗塞や脳梗塞といった命にかかわる病気が発症します。

よくあるのが、「最近ちょっと太ってきて、健康診断でコレステロールが少し高いと言われた」、などというものです。定義によっては、これだけでメタボリックシンドロームの範疇に入ってしまいます。

Q2 メタボリックシンドロームの診断基準を教えてください

A2 メタボリックシンドロームの診断基準は、一般的には2005年に日本内科学会総会で発表されたものが用いられることが多いといえます。その診断基準は下記のとおりです。

このうち①は必須で、②③④のうち2つ以上があてはまればメタボリックシンドロームに罹患しているということになります。

しかしながら、この診断基準を疑問視する声も小さくなく、この診断基準を厳格に適用すれば、日本人の中年男性の半数近くがメタボリックシンドロームになってしまい現実にそぐわない、という意見もあります。

Q3 生活習慣病にはどのようなものがありますか?

A3 一般的には、肥満、高血圧、高脂血症(高コレステロール血症、高中性脂肪血症、低HDL血症など)、高血糖(糖尿病)、高尿酸血症などですが、文脈によっては生活習慣が原因となっておこるガン(肺ガン、大腸ガンなど)を加えることもあります。また、歯周病が入れられることもあります。

参考:生活習慣病を知ろう!

Q4 生活習慣病を悪化させるものはありますか?

A4 もちろんあります。睡眠不足、運動不足、過食、喫煙、ストレス、過度の飲酒、などです。また、避けられるものではありませんが、加齢や男性であることはそれ自体で心筋梗塞のリスクであることが分かっています。

生活習慣病・メタボリックシンドローム

Q5 日本人の大半に生活習慣病になる危険性があるって聞きました。では何をすればいいのですか?

A5 現代の日本人の大半に危険性があると言われる最大の要因は、多くの日本人が高カロリー食をとっているということです。その人の生活環境にもよりますが、事務職の場合、一日に必要なカロリー摂取量は、男性であればせいぜい2000キロカロリー程度、女性であれば1500キロカロリー程度です。しかしながら、現代の日本に氾濫している食事をみてみると、一食で1000キロカロリーを超えるものが少なくなく、それに間食や飲酒が加わると、一日の摂取量が軽く3000キロカロリーを超えてしまいます。これでは肥満になるのは時間の問題です。ですから、まずは食生活を見直すことが必要です。それも根本的に見直す必要があります。

もうひとつの要因は、現代の日本人の大半が運動不足であるということです。定期的な運動をおこなっていれば、かなりの確率で生活習慣病を予防することができます。よく「忙しいから運動ができない」と言う人がいますが、「人間の身体は運動しなくていいようにはできていない」と認識すべきです。

どのように食事を見直すか、どのような運動が適しているかについては個人により異なります。当院では個別に助言しています。

Q6 仕事で接待が多いですし、時間がなくて運動は事実上不可能なんですが・・・

A6 たしかに、こういう人は少なくありませんし、私自身もかつては企業で働いていましたからこの言い分が分からないわけではありません。医師となった今ではサラリーマン時代よりもさらに時間がなくなりましたから、運動する時間を捻出するのは相当しんどいことです。

しかしながら、少しでもできることがないかどうか見直していくことは必要です。これには患者さんと医師が一緒になって考えていくことが重要ではないかと私は考えています。
また、ある程度まで高血圧や高脂血症、高血糖が進行した場合、いつまでも食事と運動だけに頼るのではなく、適切な薬を併用していくことが必要になってきます。薬を開始するタイミングを適切にするためにも、早いうちからかかりつけ医をもって定期的に相談することが大切です。

生活習慣病・メタボリックシンドローム

Q7 高血圧や高脂血症の薬は一度飲みだすと一生続けなければならないのですか?

A7 必ずしもそういうわけではありません。例えば、食事と運動をがんばって肥満が解消したという人のなかには、血圧やコレステロールの薬をやめても大丈夫な人もいます。最近の薬は副作用も少なく非常に効果のあるものが多いのですが、大切なことは、薬に頼りすぎるのではなく、薬が必要になってからも食事と運動に気を配るということです。

Q8 薬を飲むときに大切なこと、気をつけるべきことは何ですか?

A8 最も大切なのは、「医師の処方どおりに薬を飲んで、自分の判断でやめない」、ということです。なんらかの理由で薬を飲むのがイヤになるということはよくあります。しかしながら、自分の判断で勝手に止めるのは危険極まりない行為です。薬がイヤになれば、それを主治医に伝えてからやめなければなりません。「そんなこと言ったら怒られるんじゃないかなと思って・・・」、という人がたまにいますが、医師の方も「どうしても飲みたくない」と言っている患者さんに無理やり薬を飲ませることはできません。その場合、医師は薬を飲まなかったときの危険性などについて説明し、患者さんと一緒に対策を考えていくことになります。薬というものはお金がかかりますし、副作用を心配しなければなりませんから、薬が大好きという医師はそんなに多くありません。薬がイヤという患者さんの気持ちはよく分かるのです。だからこそ、一緒に対策を考えていきたいのです。

Q9 定期的に検査は受けなければならないのですか?

A9 血液検査は定期的に必要ですし、受診ごとに血圧を測ることもしなければなりません。(血圧については自宅で計測するのがより良い方法です) それ以外には、必要に応じて、画像検査が必要になります。レントゲンの他、エコーやCT、場合によってはMRIが必要になることもあります。当院では、CTやMRIの設備がないために、必要な患者さんに対しては近くの放射線科クリニックや、患者さんの希望に応じて他の病院で撮影してきてもらっています。撮影した画像はフィルムやCDのかたちで患者さんにお持ちいただき、説明は当院でおこなっています。

Q10 心筋梗塞や脳卒中、腎不全になる確率が計算できると聞いたのですが

A10 年齢、体重、健診(血液検査)の結果、血圧、喫煙・飲酒の有無などから、将来心筋梗塞や脳卒中をどの程度の確率で発症するかについての計算ツールが世界中で開発されています。日本人には「大阪がん循環器病予防センター」が開発したものが適切だと思われます。下記URLで無料で計算してくれます。

http://www.osaka-ganjun.jp/health/si-estimate/

腎不全や慢性腎臓病(CKD)については下記が参考になります。

http://www.shiga-jin.com/calculation/04.html

尚、当院では日本腎臓学会と日本糖尿病学会が策定している「かかりつけ医から専門医・専門医療機関への紹介基準」をもとに必要に応じて専門医を紹介しています。