アレルギーの検査
「アレルギーの検査をしてください」と言って受診される方は少なくありません。アレルギーの検査はたくさんありますが、できるだけ早急にすべき検査から、特に急ぐ必要のない検査、危険の伴う検査、などいろいろな検査があります。また、アレルギーを示唆するエピソードがないのにもかかわらず検査を希望する人がいますがこれには意味がありません。最も「誤解」が多いのは食物アレルギーで、血液検査ですべてがわかるわけではなく、原則としてセットになった検査はすべきでありません。
●花粉症を疑ったとき
花粉症も含めてアレルギー疾患を疑ったときに最初におこなわれることが多い検査は、「非特異的IgE」です。なぜなら、この2つはアレルギー疾患を有している人は高い値を示すことが多く、「どの程度のアレルギー体質か」を知る手がかりになるからです。非特異的IgEの値を知ることによって、花粉症がどの程度重症化するかをある程度予測することができて、さらに薬を選択するときの参考となります。
患者さんからよく言われるのが、「自分はどのような花粉にアレルギーがあるのか調べてほしい」というものです。これは特異的IgE抗体で、当院でも、スギ、ヒノキ、カモガヤ、ブタクサ、ヨモギなどに対する値を調べることがあります。(尚、アレルギーの原因物質のことを「アレルゲン」と呼びます)
しかしながら、特異的IgE抗体は必ずしも必要というわけではありません。例えば、「毎年2月から4月の終わりごろまで、くしゃみ・鼻水・鼻づまりに悩まされている。それ以外の季節には症状がない」、という人ならスギに対する花粉症と考えて差し支えありません。もしも「2月頃に始まってゴールデンウイーク明けまで症状が続く」なら、スギとヒノキの花粉症が考えられます。
「特異的IgE抗体の数字の大きさで、アレルギーの重症度が分かるのでは?」と聞かれることがありますが、これは必ずしも実際の重症度と相関しません。例えば、スギに対して特異的IgE抗体がすごく高い値を示しているけど、実際の症状はそれほど強くない、という人もいますし、その逆に数字は低いけれども症状は強い、という人もいます。ですから、特異的IgE抗体の数字はあくまでも”参考”と考えるべきです。
もちろん、どの花粉にアレルギーがあるのか、について知りたいのであれば保険診療で検査することは可能です。ただし、安くはない検査です。下記を参照ください。(尚、下記の費用は検査代だけであって診察代が別途かかります。診察代は3割負担で、初診であれば880~1,040円、再診であれば380~560円です)
検査費用例1:非特異的IgEと6種の特異的IgE抗体(スギ、ヒノキ、カモガヤ、オオアワガエリ、ブタクサ、ヨモギ)を調べた場合 → 2,820円(3割負担)
何らかの理由で、それぞれの花粉に対して徹底的にアレルギー反応を調べたいとき、約40種の花粉に対して検査が可能です。(ただし保険診療で認められているのは、月に10種類までです)
当院で、あえて花粉の特異的IgE抗体をすすめるのは、引越しや転職を考えているときです。例えば、新しい住居や勤務先の候補として考えているところがスギの花粉量が多いところであり、花粉症の疑いがあるのであれば、スギの特異的IgE抗体を参考にすべきでしょう。また、舌下免疫療法を実施する前には特異的IgE抗体を測定するのが一般的です。
以上をまとめると、次のようになります。
①花粉症は問診だけでかなりのことを知ることができる。
②検査をすべきなのは非特異的IgE。
③それぞれの花粉に対する特異的IgE抗体は必ずしも必要なわけではない。
④舌下免疫療法開始前には特異的IgE抗体を調べるのが一般的。
●花粉症以外の鼻炎・結膜炎症状があるとき
・花粉症なのか何なのかよくわからないけど鼻炎・結膜炎症状がでたり消えたりする。
・1年を通してほとんどの季節で鼻炎・結膜炎症状がある。
・普段は大丈夫なのに、会社の倉庫にいくとくしゃみが止まらなくなる。
・特定の友達の家に行くと、目が痒くなる。
これらは、いずれも花粉以外の吸入アレルゲンによりアレルギー反応がおこっている可能性があります。
これらの場合、まずはあなたがアレルギー体質であるかどうかを調べるのがいいでしょう。要するに非特異的IgE調べるのです。
次に、状況によって推定される吸入アレルゲンの特異的IgE抗体を計測してみるのもいいでしょう。例えば、症状が通年性であれば、ハウスダストやダニ(コナヒョウダニ、ヤケヒョウダニなど)をみてみるのです。また、カビやゴキブリ、ユスリカなどを調べてもいいかもしれません(これらの死骸や糞を吸入することによってアレルギー反応が起こることがあります)。倉庫に入ったり、ホコリっぽいところに入ったりしたときに症状がでる、という場合もこういった検査は有用です。
特定の友達の家に行ったときに症状がでるのであれば、その友達はイヌやネコを飼っていないか、鳥はどうか、部屋が汚くないか、などに注目して必要な検査を考えていくのがいいでしょう。
検査費用例2:非特異的IgE、5種の特異的IgE抗体(ハウスダスト、コナヒョウダニ、ゴキブリ、ユスリカ、アスペルギルス)を調べた場合 → 2,490円(3割負担)
●ペットアレルギーがある(かもしれない)とき
ネコやイヌに対するアレルギーの疑いがあって、これから飼うことを検討しているときには検査すべきでしょう。ネコやイヌのアレルギーは、鼻炎・結膜炎症状だけでなく、ときに重篤な喘息発作を起こすこともあります。
ただし、すでに飼っている場合で、重症度が強くない場合には検査は必ずしも必要ありません。なぜなら、もしも陽性反応が出たとしても捨てる人はいないからです。
しかし、喘息発作をおこしたことがある、など重症エピソードあれば、すでに飼っている人も一度検査(ネコやイヌの特異的IgE抗体)をしてみるべきでしょう。これは「(陽性反応がでれば)ペットを捨てなさい」、と言っているわけではありません。そうではなく、ペットと一緒に過ごすことを前提として、検査結果を参考にして、今後どういった点に気をつけるべきかを考えていけばいいのです。
例えば、すでにネコを飼っていて、強いアレルギー症状がでたことがあり、検査でネコのRASTが高かったとしましょう。この場合、寝室は別にすべきとか、じゅうたんをフローリングに替えるべきとか、もしものときのために屯服の強い薬をいつも持っているようにするとか、そういった対策を考えるようにするのです。
検査費用例3:非特異的IgE、2種の特異的IgE抗体(イヌ、ネコ)を調べた場合 → 1,500円(3割負担)
●食べ物のアレルギーを疑ったとき(成人の場合)
たとえば特定の食べ物を食べた直後に、全身に蕁麻疹がでて息苦しくなったことがあるとか、喘息症状がでたことがあるとかいった場合は積極的に検査すべきでしょう。食べ物で重症化することがあるのは、サバ、ピーナッツ、エビ、カニ、ソバなどです。
成人の場合でも、小麦アレルギーのある人がいて、ときに重症化することもあります。可能性のある人は一度調べておくべきでしょう。ただし、小麦アレルギーがあったとしても、特異的IgE抗体は小麦には反応しない場合があり、こういった場合はグルテン及びω5グリアジンという項目を調べます。また、最近は減りましたが、「茶のしずく石鹸」を代表とするスキンケア製品に含まれていたグルパール19Sと呼ばれるタンパク質が
原因で小麦アレルギーになるケースもあります。
検査費用例4:非特異的IgE、好酸球、3種の特異的IgE抗体(コムギ、グルテン、ω5グリアジン)を調べた場合 → 1,830円(3割負担)
果物を食べて口の中に違和感が生じた、あるいは喉や気道に不快感を感じた、という経験はないでしょうか。この場合、果物に対してアレルギーがある場合があります。これは、マンゴーのように食べて1~3日後に口の周りが痒くなるタイプとは異なるタイプのアレルギーで、食べた直後に起こります。そして最近増えています。一部の花粉症と合併することがありこれをPFAS(花粉食物アレルギー症候群)と呼びます。また、ラテックスアレルギーと合併するラテックスフルーツ症候群もあります。
検査費用例6:非特異的IgE、5種の特異的IgE抗体(ラテックス、バナナ、アボガド、クリ、キウイ)を調べた場合 → 2,490円(3割負担)
何らかの理由で、食物性アレルゲンに対するアレルギー反応を徹底的に調べたいとき、魚や果物、野菜を含めて約70種のアレルゲンに対して検査が可能です。(保険診療で認められているのは、月に10種類までです)
●食べ物のアレルギーを疑ったとき(小児の場合)
小児の食べ物アレルギーで多いのが、コムギ、タマゴ(の白身)、ミルクで、ときに重症の喘息発作をおこすことがあるため、できればアレルギーがあるのかどうか正確に判定すべきです。血液検査(特異的IgE抗体)でこれを調べた場合、結果は参考にはなりますが、必ずしも正確ではありません。つまり、実際には食べても大丈夫なのに血液検査では反応がでてしまうことがあるのです。
このようなとき、むやみやたらに食事制限をすべきではありません。なぜなら、コムギ、タマゴ、ミルクなどはいずれも子供の成長に必要なものであり、食事制限をおこなうことによって成長障害が起こらないとも限らないからです。
ではどうすればいいかというと、血液検査ではなく、下記に述べるプリックテストが有用です。(ただし、当院では現在検査を中止しています。小児科もしくは子供の多い皮膚科にお問い合わせください。尚、プリックテストも絶対に正しい結果がでるとまでは言えず、確定診断には内服負荷試験(実際にその食べ物を食べてもらう検査)が必要となります)
●昆虫アレルギーを疑ったとき
昆虫アレルギーは大きく2つに分けることができます。1つは、昆虫の死骸(のかけら)や糞を吸入したときにおこるアレルギーで、これについては上記「花粉症以外の鼻炎・結膜炎症状があるとき」を参照ください。
もうひとつは昆虫に刺されたときにおこるアレルギー反応で、最も有名なのがハチによるアレルギー反応です。これは、ときに重症化しますから、疑えば検査が必要です(ハチの特異的IgE抗体をおこないます)。ただし、ハチに刺されてから数年以上経過していると陰性とでることもあるため、問診を含めて総合的に判断することが必要です。
ハチアレルギーは、アナフィラキシーといって、短時間で一気に重症化し、命にかかわる状態になることもありますから、場合によっては注射薬を持参してもらうこともあります。(ただし、当院では現在この注射薬の処方をおこなっていません)
ハチ以外で重要なのは蚊アレルギーです。単に蚊に刺されただけなのに、大きく腫れあがるような場合、EBウイルスが関与していることがあります。EBウイルス感染症はそれほど多い感染症ではありませんが、蚊アレルギーが重症化するような場合には一度検査をしてみるべきでしょう。
●気管支喘息
喘息を疑えば、非特異的IgE、好酸球を計測し、ある程度重症化していれば胸部レントゲンを撮影します。(その前に胸の音を聴診します)
さらに、呼吸機能検査(息を吐いたり吸ったりしてもらう検査)や呼気一酸化窒素を測定することもあります(ただし、一酸化窒素の検査は現在当院では実施していません)。
また、これはアレルギーではありませんが、気管支喘息で長期にわたりステロイド吸入薬を使用している場合、口腔内にカンジダが発生していないかどうかを検査することがあります。(これはすぐに結果がわかります)
喘息の古典的な薬にテオフィリンというものがあります。商品名で言えば、テオドール、テオロング、ユニフィル、スロービッドなどです。これらは、有効血中濃度が非常に狭いため(血中濃度が少し高くなると副作用がでて、少し低くなると効果がなくなる、という意味です)、定期的な血液検査が必要になります。ただし、最近は安全かつ有効で使いやすい喘息の薬がたくさんありますから、テオフィリンは使われなくなってきています。(当院でも特別な場合を除いて処方していません)
気管支喘息の場合、検査よりも、問診によって、重症度やきちんとコントロールできているかどうかが分かります。アレルギー疾患は、検査よりも問診が重要ですが、気管支喘息についてはその傾向が特に強いと言えます。
●アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、独特の皮疹と問診から診断は簡単につきますが、重症度の参考にするために非特異的IgEと好酸球を測定することがあります。また、最近ではTARCという項目を計測することもあります。一般的に非特異的IgEが高ければ重症度が強いといえますが、アトピー性皮膚炎の場合、IgEは正常なのになかなか改善しないということもあります。(特に若い女性に多いような印象があります)
最近、アトピー性皮膚炎の患者さんのなかにフィラグリンという遺伝子の異常があることが多いということが分かってきましたが、これは研究レベルの話であり、実用化はしていません。(その遺伝子に異常があろうがなかろうが治療が変わるわけではありません)
アトピー性皮膚炎の場合、アレルギー検査ではありませんが、皮膚の真菌症を合併していることがありますから、定期的に真菌症の検査をおこないます。これは顕微鏡の検査ですからすぐに結果が分かります。
また、「成人になってから急にアトピーを発症した」と言われる方のなかには、アトピーではなく別の病気だったという場合があります。アトピー性皮膚炎という診断がきちんとついていない人は、安易に(特に自己判断で)アトピーと決め付けずに、まずは痒みの原因を調べるべきです。当院の例で言えば、アトピーと言って受診した患者さんの実際の病気が、HTLV-1感染に伴う紅皮症であったことや、疥癬(かいせん)と言って人間に寄生するダニの感染症だったということがありました。
●かぶれ(接触皮膚炎)
毛染めや化粧品によるかぶれ、金属アレルギーなどを代表とする「かぶれ」(アレルギー性接触皮膚炎)は、特定の物質に接触してから1~2日経過してから症状が出現します。検査はパッチテストが有用です。詳しくは下記を参照ください。
●プリックテスト
これは皮膚に微小な傷をつけてその上に食品や薬品を置いて反応をみる検査です。このアレルギー検査はⅠ型アレルギーといって即時型のアレルギー反応を調べるもので、特に、上記「食べ物のアレルギーを疑ったとき(小児の場合)」で述べたように、子供の食物アレルギーの検査には有用です。30分程度で結果がでます。ただし、当院では該当する患者さん(食物アレルギーを疑う小児)がそれほど多くないことから現在はおこなっていません。
プリックテストと似たような検査に、スクラッチテスト、皮内テストというものがあり、前者は小さな擦り傷をつくりそこにアレルゲンを塗布するもの、後者は注射でアレルゲンを皮内に注射するものですが、考え方はプリックテストと同様で即時型のアレルギー反応を調べる検査です。現在当院では実施していません。
●負荷試験
これは、アレルギーが疑われる食品や薬剤を、実際に飲んでもらったり、注射したりする方法です。当然、重篤なアレルギー反応が生じる可能性がありますから、入院が前提となります。(必要な方は病院を紹介いたします)極端な言い方をすれば、それら食品や薬剤を摂取して意識がなくなったり気道が閉塞したりしても、直ちに対処できるような体制を整えた上でおこなう検査です。
●最後に
それぞれの項目で述べたように、アレルギー疾患の診断をつけるのに最も大切なのは検査ではなく問診です。あくまでも問診が中心で検査は補助的なものと考えるべきです。しかしながら、場合によっては検査が必要になることもありますから適切なタイミングで適切な検査を医師と相談しながらおこなっていくべきです。
当院で血液検査で調べることのできる項目は別ページを参照ください。表には、吸入性アレルゲン(花粉)、吸入性アレルゲン(花粉以外)、食物性アレルゲン、その他、と分類されています。一度に検査できる(保険診療で認められる)のは10項目程度とお考えください。検査代の目安は、1項目で約1,170円、3項目で約1,830円、6項目で約2,820円、10項目で約4,110円です。(診察代が別途かかります)
吸入アレルゲンも食物性アレルゲンも含めて日本人に多い合計40種前後のアレルギーを一気に調べることができる検査もありよく質問を受けます。しかし、こういったセットの検査を勧めることはほとんどありません。価格は約5,000円となり費用が高くつきますし、その上精度が劣るからです。ひとつひとつの項目を調べる検査との一致率は9割程度しかありません。問診から必要な項目を絞り込んでいき、最小限の検査をおこなうのが最も良い方法です。
改訂:2023年5月17日
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